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カテゴリー 映像作品に描かれたダメダメ家庭
配信日 05年3月11日
タイトル 奥様ご用心 (57年作品)
監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ
この「奥様ご用心」という映画は、フランスの小説家のエミール・ゾラの「ごった煮」という小説を原作としたものです。映画の原題の「POT BOUILLE」は小説の題名そのままです。

ゾラはフランスのリアリズムの流れの人です。また画家のセザンヌの幼馴染としても有名です。
ここでも主人公の青年はエクス・アン・プロヴァンスからやってくるわけですが、エクス・アン・プロヴァンスというとセザンヌが活躍したところです。あるいはオルタンスという名前の女性が出てきますが、オルタンスという名前は確かセザンヌの奥さんの名前だったと記憶しています。

まあ、この映画とセザンヌは関係ありません。むしろゾラという小説家が厳しいリアリズムの人だということは覚えておいた方がいいでしょう。
この「奥様ご用心」という映画は、エクス・アン・プロヴァンスからやってきたオクターヴ・ムレという青年が、パリの女性と次々に関係を持っていくという話です。その美貌の青年ムレを、当時「フランスの貴公子」と言われた美形の俳優ジェラール・フィリップが演じています。

パリの女性と次々に関係を持っていくという話なので、「作品解説?」などには、女性を次々ゲットして捨てていくドン・ファンを主人公とした話と書かれたりしています。だから「奥様ご用心」などと邦題がついているのでしょうね。
しかし、違うんですよ。

この「奥様ご用心」という作品は、女性を次々にモノにしていく青年の話ではないわけ。
「愛の無い」「笑顔が枯れた」日々を送っている女性たちに、ひと時の「愛の時間」を提供していく、サービス精神に溢れた青年の話なんです。

だからこの映画での本当の主人公は、青年の側ではなく、愛の無い日々を強いられている女性たちと言えわけ。
では、この「奥様ご用心」という作品に従って、女性たちに「愛のない日々」を強いるダメダメ家庭の具体例を検証してみましょう。

1. ケチ・・・ダメダメ家庭はやたらケチです。何をするにも費用対効果を考えたりすることはこのメールマガジンで何回も書いています。ここで登場する姉妹の母親がケチの権化。そして「さもしい」わけ。
辻馬車をケチるのはいいとして、自宅でのパーティで提供するワインとか葉巻なども随分と安物を出している様子。おまけに人の家のパーティに出かけたら、「ただだから、いっぱい食べよう!」とガツガツ食べているようです。こんな親と暮らすのはイヤですよね?

2. 常にお金の話題・・・自分の娘の前で、結婚の持参金がどうの・・・と、そんな話題ばかりを展開する。それでは娘だって落ち込むでしょ?それに、親に対して気を使うことにもなりますよね?これではイヤにもなりますよ。

3. 適齢期には結婚しろ!・・・ダメダメ家庭では「普通の形」に拘るわけ。「とにかく周囲に合わせておけ!」と言うのが口癖。だから自分の子供が適齢期に結婚することに拘るわけ。結婚相手の人格云々よりも、自分の子供の年齢のことを考える・・・ダメダメ家庭においては、今の日本でも見られる光景ですね。

4. 子供の前でケンカ・・・夫婦でケンカするのはいいとして、子供の前でやられると子供としてはどうすればいいの?そんなことは、それこそ子供だってわかることですよね?しかし、ダメダメ家庭ではそんな配慮なんて無縁。これでは子供も将来に希望なんて持ちようがないでしょ?

5. 夫婦で相手の親戚を非難・・・ダメダメ家庭では普段からグチばかり。配偶者へのグチは日常茶飯事。さらにそれが進展して、配偶者の親戚へのグチに行くわけです。ダメダメ人間は常に「自分は被害者!」と思っているので、自分が結婚した相手の親戚を非難するわけ。「アンタもあの連中と一緒だよ!ああ、私は貧乏クジを引いた!」まあ、そう思うのなら、結婚する前になんとかしないとね。そのような当事者意識がないから、後になってグチるわけ。

6. 形式だけにこだわる・・・親の命令で、イヤイヤ結婚させられる女性。だから気分的に落ちこんでいる。そんな自分の娘をよそにダメダメな親は、喜々として結婚式の準備を進めることになる。「ああ!これでワタシも一件落着ねっ!」。これでは娘も結婚後の困りごとなど親には相談できませんよね?

7. 子育ての苦労・・・ダメダメな親は二言目には「子育ての苦労」を言い出す。結婚式の前にも「これで私の苦労が終わるわ!」そう言われちゃったら、子供はどうすればいいの?新婚家庭でのトラブルを親に相談できないでしょ?それとも、これ以降も、親に苦労させるの?

8. あきらめを教える・・・「まあ、結婚してもロクなことはないよ!」と、母親が自分の娘にアドヴァイス。実もふたもないアドヴァイスですが、ダメダメ家庭ではおなじみです。こんなアドヴァイスを受けて笑顔を持って生きるなんてできないでしょ?

9. 嫉妬深い・・・この映画で出て来る男性は往々にして嫉妬深い。まあ、嫉妬という感情は人間だったら誰でも持っているもの。ただ、ここでの嫉妬はちょっと別の意味もあるようです。結局は、ダメダメな男性は自分の妻しか相手になってくれない。だからこそ妻の行動に異常に拘ってしまう。妻だけで楽しんでしまうのが許せないわけ。むしろ、一緒になって苦しみを共有したいと考えている。いわば、「疎外感の共有」に近い感情を持っているわけ。

妻に楽しみを与えない男性に限って、妻の行動を監視するものでしょ?そんなことより、妻に楽しんでもらうことでも考えればいいのにね。


まあ、映画では、こんな「笑顔の枯れた」状態にある女性に、美貌の青年ムレが優しく接することになる。ムレは女性に喜んで欲しいわけです。だから仕事(服地の販売)においても「これからは薄利多売ですよ!」と言ったりする。多くの女性に喜んで欲しいわけ。女性との関係もいわば薄利多売のスタイル。
まあ、その過程において多くの女性と関係を持つわけですが、そのような性的関係だけが目的の人ではないんですね。

この映画のヴィデオのパッケージには「次々と女性をモノにしていく美貌の青年」などと書かれていますが、芸術作品というものは、見る人のレヴェルが低いと、それなりにしか見えないもの。
「ハンサムな青年がオンナを次々とモノにしていっていいなぁ・・・」と思うような人は、その程度の人なんでしょうね。

このムレさんは「愛の無い日々」を送っている女性に、愛を与える男性。
主役のムレを演じたジェラール・フィリップは、男性のクセに、まさに美人薄命なのか36歳でお亡くなりになりました。
ジェラール・フィリップの後に来るハンサムなフランス俳優となるとアラン・ドロンとなるわけです。

アラン・ドロンについては以前にちょっと書いたことがあります。
アラン・ドロンは「愛を求める」キャラといえます。
それに対し、ジェラール・フィリップは「愛を与える」キャラ。

「愛を求める」キャラで、それゆえに父親役ができないアラン・ドロンが長生きして、「愛を与える」キャラで、父親役もきっと上手に出来たであろうジェラール・フィリップが早死にしてしまう。

こんな時にフランス人が言う言葉は、
「セ・ラ・ヴィ(人生って、こんなものね)」

(終了)
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発信後記

フランス映画には、ダメダメ家庭を描いた作品が実に多くあります。
このデュヴィヴィエ監督は、そのようなダメダメ家庭をテーマにして、多くの映画を撮った人です。出世作はジョルジュ・ルナール原作の「にんじん」。このジョルジュ・ルナールの「にんじん」という作品自体も、強烈にダメダメ家庭を描いていますよね?

以前、ダメダメ家庭出身者は「意外に容姿端麗」というお題で書きました。
北欧で美人そろいの国というとスウェーデンですが、スウェーデンにもダメダメ家庭を描いた作品が実に多い。
容姿の面で、はるかにスウェーデンに劣るデンマークとかフィンランドは、ダメダメ家庭そのものがテーマになっている映画はほとんどありません。

フランス人が比較的容姿端麗であることと、フランス映画にダメダメ家庭を描いた作品が多いことは、密接に関係があると思います。

容姿の問題ですと、「おお!」と思ったのは、イギリスのチャールズ皇太子の再婚問題。
再婚相手のカミラさんは、どうお世辞を言っても美人とは言いがたいでしょ?こんなこと書くとイギリスからクレームが来そうですが・・・

ダメダメ家庭の出身者の典型が、あの容姿端麗なダイアナさんなのに対し、カミラさんはマトモ家庭の出身なのかもね。その「普通」の「おばさんチック」なところにチャールズさんは安心感を持ったのでは?チャールズさんはやっぱり「普通」に憧れているんでしょうね。
R.10/11/18