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カテゴリー | 文芸作品に描かれたダメダメ家庭 | |
配信日 | 06年5月8日 | |
タイトル | 「谷間のゆり」 (序章) | |
作者 | オノレ・ド・バルザック | |
最終回のためのお題は以前より決めていたのですが、なかなか最終回が来そうにありません。トホホ・・・ ということで、「これを最終回にしよう!」と、以前より暖めていたネタである、バルザックの小説「谷間のゆり」を、最終回にはなりませんが、ここで取り上げ考えてみることにいたします。 あまりに長くなるので、今回を含めて、短い・・・短くはありませんが・・・文章にして8回に分けて配信いたします。 今回はその序章として、そのバルザックの「谷間のゆり」の中の実際の文を、そのまま抜き出してみます。 ******* 抜き出し ******** 自分の周りにいて感受性を伸ばしてくれるべき人々に、かえってその情操を押し付けられてばかりいる・・・ しょっちゅう「びくびく」していることは、気力を弱め、臆病な気持ちを植え付け・・・ 庭にじっとして、石で遊んだり、虫を見ていたり・・・ 情けない子だねぇ!この子にはこれからからも、イヤな思いばかりさせられるんだろうよ! いったい、どうなるんだろう?この子は? 私たちは色んな意味で似通っていますからね。 彼はしきりに苦痛を訴えましたが、どこがどう苦しいのか一向にわかりませんでした。 その不幸が分かるのは同じ病に冒されている人たちだけですが、その代わり、そういう人たちの間には、兄弟のような理解があるのです。 私たち子供の頃はまるで同じようでしたのね! それが外部の者の目には、これ見よがしに吹聴される母親の愛情の見せ掛けによって隠されるのでした。 すっかり心を打ち明けて話していると、その打ち明け話がそのまま武器に用いられるのでした。 楽しい思いをしたことを、まるで過ちでもしたように叱り付けられた・・・ あたくしの野心といえば、ただあの子のことだけです。 恋人よりは遠く、兄弟よりは近い・・・ 悲しみには果てがありませんわ。喜びには限りがありますけど・・・ あなたもまだ子供のままの大人でいらっしゃる。 彼は、勘のいい、あるいは、たしなみのある人間なら黙っていてもわかるような些細なことまで、いちいち物知り顔で教えてくれます。 せっかくのあなたのお言葉ですけど・・・ 私はやっぱり一人で愛していたのです。 もう決してグチなど申しません! この一年の間にこれだけ髪の毛が抜けましたの。どうぞこれをお受け取りになって! さあ、もっとそうしてあたしの痛手を慰めてくださって! 悪いことをした犬はお仕置きされます。しかし、お仕置きをされながら、自分を折檻するその手を慕うんです。どうかこの僕を存分に折檻してください! わたしだけが、本当にわかっているのですけど・・・ その苦しさは、彼女の表現を借りれば、つまり彼女の好きな苦しみでした。 そうしてもう一度あなたがこうつぶやいてくださるのを聞きたいんです。「お気の毒な!お気の毒な!」 あたしがあの子達のためにどんなに苦しんだか! ごめんなさいね!ごめんなさいね! 僕はあなた以上に苦しんでいるのです。 他人の幸福って言うことが、自分はもう幸福になれない人間にとって何よりの慰めなの。 わたくしたちが二人とも共通の苦しみによって聖火に焼かれる身であることを知った時、わたくしはどんなに嬉しかったか! わたくしたちが二人とも同じ「くびき」につながれていることを見て取ると、それこそ心も嬉しく苦しみました! わたくしの生活は、ただそれ以来、ただもう耐えることのない苦痛となって、しかもその苦痛が、わたくしには嬉しかったのでした。 いったい、あなたは女というものをご存知ないのでございますかしら? (終了) *************************************************** 発信後記 抜き出した文章は、本にある文章ほぼそのままです。代名詞などを明確にしたり、平仮名が並ぶと読みにくいので、適宜カッコを入れたりはしましたが、ほぼそのままです。 ちなみに、底本は、78年に発行された筑摩書房社刊行のものです。 日本語版の出版社には、別に特別の意味はありません。たまたま古本屋さんに売っていたのがそれだっただけ。 どこにでもある本ですので、皆さんも是非ともお読みになってくださいね。 |
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R.10/2/28 |