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カテゴリー 文芸作品に描かれたダメダメ家庭
配信日 06年6月23日
タイトル 「谷間のゆり」(周囲の人のレヴェルの低さ 編)
作者 オノレ・ド・バルザック
ダメダメ家庭の周囲は、そのダメダメ人間当人だけでなく、周囲の人のレヴェルも低い。このことは以前に配信しております。今回は、この「谷間のゆり」でアンリエットが住んでいるグロッシュグールドでの周囲の人のレヴェルの問題を考えてみます。

ダメダメな人間が、どのようにしてダメダメな環境を作り出し、そしてそのダメダメな環境によって、自分の家庭のダメダメが進行するのか?
この「谷間のゆり」では、実に典型的な様相が見られるわけ。

1. グチばかり言っている・・・ダメダメな人間はいつもグチ。そんな人の相手をしてくれるのは、グチに共鳴してくれるだけの人。「グチはいいとして、で、アナタ自身はいったいどうしたいの?」なんて聞くような人は遠ざけてしまう。そんなグチに甘い相手に対し、心行くまでグチ。そしてグチが共鳴することにより、「自分はかわいそうな被害者」であることを、更に納得してしまう。だから、ますますグチに身が入る。そんなものなんですね。

2. 序列意識が強い・・・ダメダメ家庭の人間は序列意識が強い。同格の間柄ではやり取りができないわけ。たとえ丁寧な言葉であっても、「命令と服従」のコミュニケーションしかないわけ。そして序列意識があるわけだから・・・やっぱり自分が一番の立場に立ちたい・・・と思うのが人情。ということで、アンリエットはグロッシュグールドに引っ込んで、パリに出ようとはしない。だってパリに出てしまうと、「自分が一番!」なんてことにはならないでしょ?グロッシュグールドでは、アンリエットはダメな夫を見下し、子供よりは当然に序列も上だし、フェリックスに対しては「母親が息子に接するように」接するわけ。結局は同格でのやりとりができない人間なんですね。そんな人間はパリでは通用しませんよ。

3. 会話の基本姿勢がない・・・初対面と人とやり取りすることになった場合、必要なものは会話の基本姿勢。しかし、その会話の基本姿勢がない場合は、どうしようもないでしょ?自分が伝えたいものを、自分自身で自覚して、相手にわかるように伝える・・・そして相手の話を真摯に聞く。アンリエットには、そんな会話の基本ができていない。マトモな環境では、自分のフィールドであるグチをいきなり切り出しても、バカにされるだけですよ。

4.ネタがない・・・グチばかり言っている人は、それ以外はネタがないもの。実際にそんなものでしょ?本を読んでネタを仕入れたり、新しいことにチャレンジして、その体験を語ったり・・・そんなことはしないものでしょ?そもそも被害者意識だけがある人なので、その視点なり発想も、新鮮さがないわけ。そんな人と話をしても実際にツマラナイものですよね?だから、やっぱり周囲の人のレヴェルが落ちてしまう。

5.向上心がない・・・ダメダメ人間は「自分をかわいそうな被害者だ!」と認定している。実際にそのような面もあるわけですが、その考えに確信を持っているので、「自分自身を高めよう!」なんて思っていないわけ。だって被害者がどうして向上する必要があるの?だから向上するために新しい見聞を得ていこうとは、まったく考えていない。人と顔を合わせるといつも同じグチ。そんな人の相手をしてくれるのは、やっぱりグチが好きで向上心がない同類のダメダメ人間だけなんですね。

6.子供への配慮のなさ・・・「子供のため!」なんて言っている人に限って、子供に立派な後見人をつけてあげようなんて考えてはいないわけ。結局は、自分が子供にまとわりつきたいだけなんですね。自分の子供に対し、貴族の子供にふさわしい経験をさせたり、教育なり、環境を作ってあげるのが親であるアンリエットの務めでしょ?しかし、どうもそんな発想がなさそう。だから周囲がダメダメな人間ばかりで、将来に必要な体験ができない状態でも、いたって平気なんですね。

7.嫉妬心・・・ダメダメな親は、自分の子供に立派な人間を見せようとはしません。そんな立派な人間を見ちゃったら、子供だって、「ワタシの親って、実はダメダメじゃないのかな?」と疑問を持ってしまうでしょ?だから、ツマンナイ人間だけを集めて、そんなツマンナイ人間の中で、一番の立派な人間の座を獲得するわけ。そうやって、子供から「お母さんって立派な人だ!」と尊敬を得ようとするわけです。自分が唯一相手になってくれるのは子供なので、その子供から尊敬を得られなくなることが怖いんですね。尊敬を得るために自分で努力をすればいいじゃないの?という発想はもっともなんですが、そんなまっとうなことはしない。むしろ周囲のレヴェルを落とすことによって、相対的に自分を立派にするわけ。

こうして、どんどんと周囲の人のレヴェルが落ちていってしまう。
しかし、周囲の人のレヴェルが落ちた方が本人にとっては都合がいいわけです。
だって、周囲の人は、自分のグチに付き合ってくれるし、序列も自分より下のまま。自分が「お山の大将」でいられるでしょ?

周囲の人がボンクラのままなので、周囲の人は自分を尊敬してくれる。
「ああ!あの人は立派な人だ!」
周囲のボンクラたちから尊敬される喜びに満足しちゃうんですね。
そして、その喜びを得るために、周囲の人をますますボンクラのままにしておきたいわけ。

自分に厳しいことを言ったりするような人は「キーっ!あの人はワタシを全然わかっていないわ!」なんて言い出して、遠ざけてしまう。
まあ、アンリエットは貴族だから、そこまでのことは言いませんが、やっていることはそれでしょ?

この「谷間のゆり」での登場人物は、正直言ってつまらない人が多い。話のネタも貧しいし、自分なりに目標を持って行動している人がいるわけではない。それこそ、子供のための優秀な家庭教師でも雇えばいいわけですが、そんなこともしない。それによりアンリエットの「高潔さ」が際立つわけですが、それって、アンリエットが、周囲の人間を「ハキダメ」にしてしまったからこそのものなんですね。

現在の日本でも、「あの人は立派な人だ!」なんて言われる人がいますよね?
しかし、そのような人が、本当に立派なの?よく考えてみてくださいな。その人に具体的には、いったいどんな「立派さ」があるの?そのように問われると、「確かに・・・特にないなぁ・・・」と思ったりするでしょ?
周囲がダメダメだから「立派に」見えるだけのことが多いでしょ?そして、その人の周囲のダメダメな状況って、「立派な人」自身が作り上げていたりするわけ。

そうやって、今度は周囲のダメダメをグチったりするわけ。
「ああ!周囲の人がダメダメで、ワタシって、なんてかわいそうなの!」
しかし、本当にかわいそうなのは、当人なのではなく、その子供なんですね。

(終了)
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発信後記

現在、このメールマガジンの発行は、週2回の頻度で、発行は月曜日と、金曜日になっておりますが、次からは火曜日と金曜日に変更する予定です。
日曜日の夜って、色々とありますし、それに、メールマガジン発行のサイトのサーバーが混んでいるんですよ。

ということで、よろしくお願いいたします。
R.10/11/5