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カテゴリー 文芸作品に描かれたダメダメ家庭
配信日 07年5月1日
タイトル タイース(舞姫タイス)
作者 アナトール・フランス(1921年ノーベル文学賞 受賞)
出版 1890年
この文章の英語版もあります。こちらから
このメールマガジンでは、ダメダメ家庭出身者に向いている分野として芸能界がある・・・なんてよく書いたりしています。
自分の親から認められてこなかったので、そんな家庭の子供は「自分を認めさせたい!」という切実な欲求を持つことになる。その「自分を認めさせたい!」という強い欲求こそが、そのまま芸能界で必要とされる意欲そのものでしょ?

逆に言うと、芸能界で、それなりの地位を確立するような人たちは、「自分を認めさせたい!」という強い欲求を持ち続けているわけでしょ?まあ、一般のマトモな家庭の出身者では無理ですよ。「ワタシの親や周囲の人たちは・・・自分のことを何も言わずともわかってくれる・・・」なんて安心感があったら、あんな業界では生きてはいけませんって・・・

もちろん、「ダメダメ家庭出身者だったら、芸能界でやっていけるのか?」というと、そうは簡単じゃないでしょう。容姿の問題だって当然のこととしてありますよね?
それに「自分を表現したい!」と思っても、その表現能力は、親ゆずりの才能(タレント)も必要になる。「自分を表現したい!」という強い欲求を持たざるを得ないのは、ダメダメな親からのものとも言えますが、それを表現する能力も、ダメダメな親からのものも必要。
なんとも、まあ、メンドウなもの。

さて、じゃあ、それなりの才能があるダメダメ家庭出身者が、どんな感じで芸能人になって行くのでしょうか?

と言うことで、今回は、フランスの小説家であるアナトール・フランスの小説「タイース」を取り上げます。小説の刊行は1890年。ちなみにアナトール・フランスは1921年のノーベル文学賞受賞者。
この「タイース」という作品は、ダメダメ家庭の問題を直接扱った作品ではありません。
古代のローマ支配時代のエジプト(西暦350年頃かな?)のアレキサンドリアを舞台に、キリスト教の修道院長のパフニュスが、当時のトップアイドルであったタイースを、キリスト教に回心させるが、自分自身は、タイースの色香に堕ちて行ってしまう・・・まあ、そんな話。
古代のエジプトが舞台なんだから、「ミイラ取りがミイラになった。」話と言えばいいのかな?

さて、このタイースはどのような環境から、どうやってトップアイドルになったのでしょうか?この小説の記述に従って見てみましょう。
これが実にツボを押さえているんですね。

1. 実家は水商売・・・両親は居酒屋経営。

2. 父親のキャラクター・・・大柄で見るからに恐ろしそうで、悠然と構えた姿。(小説の記述より)

3. 母親のキャラクター・・・甲高い声でガミガミ怒鳴り散らしながら、燐のような目を八方に配って、まるで飢えた猫みたいに家じゅうをうろついている、痩せこけた、いかにもみすぼらしい姿。(小説の記述より)

4. 放任家庭・・・不精な父親とガツガツしている母親とは、てんでタイースのことはほったらかしで、まるで養鶏場の家禽みたいに、その日その日の食い扶持を勝手にあさらせるのだった・・・(小説の記述より)

5. 殺伐とした環境・・・毎晩のように、少女タイースは酔っ払い連中の喧嘩騒ぎに目を覚まされた。ときに彼女は、ドスが閃めき、血潮がさっと迸るのを見た。(小説の記述より)

6. 生活力がある子供・・・船乗りを面白がらせながら、酔った船乗りの帯の間から小銭を抜き取る妙を得るようになった・・・(小説の記述より)

7. 容姿端麗・・・子供の頃から目立つ容姿。だからスカウトされることになる。

8. 頑張り屋・・・人には頼れないと思っているので、いざと言うときは、結構がんばれたりする。スカウトされた後での厳しいレッスンにも耐えることができるわけ。

9. 感激屋・・・情緒不安定なので、ちょっとしたことでも感激したりする傾向がある。

10. 表現力・・・自分を表現する欲求が強いので、その表現力もついてくる。

11. 愛を求める・・・安らぎとは無縁の日々なので、どうしても愛を求める気持ちが強くなる。そしてその雰囲気が、周囲にはまた魅力的に映る。

12. 宗教的熱狂・・・愛を、安らぎを求めているので、宗教に走ってしまう。タイースの場合は、当時は「新興宗教」であったキリスト教に入信することに。

13. 発想が極端・・・あっちに入れ込んだと思ったら、スグに別のものに入れ込んだり・・・発想なり行動が極端な人なんですね。

まあ、そんな環境で育って、それなりの才能や容姿や覚悟があるので、トップアイドルになれた・・・そんなもの。
しかし、上記の設定って、実にツボでしょ?日本の実際の芸能人も、そんな過去の人がいたりするのでは?

小説の作者であるアナトール・フランスも、近くにいた現物の芸能人を念頭において小説を書いたんでしょうね。残念ながら、いくらノーベル賞作家と言えども、想像力だけで、こんなにツボを押さえたキャラ設定は出来ませんよ。

ちなみに、タイースが一流の芸能人になるための基本レッスンをした人は、小説によると「男か女か、わからない」人らしい・・・まあ、このあたりもツボですよね?

逆に言うと、タイースは、そんな芸能界で、「自分の居場所」を見つけた・・・と言えるわけです。
ダメダメ家庭出身者の巣窟と言うと、たとえば暴力団もそうでしょうが、あれは、サスガに周囲には大迷惑。あと、ボランティア団体もそうでしょうが、ボランティア団体は、援助という名目で人をダメにしてしまう。結局はアメとムチの違いだけで暴力団と大同小異。
その点、芸能人だったら、上手に距離をとれば、一般人にも役に立つ存在でしょ?

前にも書きましたが、そんなダメダメな家庭で育っていないと、あんな業界では生きてはいけないのでは?だから芸能界での事件って、実にダメダメ家庭のメンタリティーを理解していると、わかりやすいものでしょ?
入れ込んだり」「入れ込まれたり」とか・・・あと、宗教問題とか・・・イジメのカミングアウトとか、両親のトラブルとか・・・まさにテンコもり。
華やかなスポットライトの影には、そんな苦難のドラマもあった・・・この「タイース」という小説を読むと、そんなところも見えてくると思います。
逆に言うと、ダメダメ家庭出身者は、ヘンに一般人を目指すのではなく、ダメダメ家庭出身者にフィットした分野の方ががんばれるわけなんですね。

ちょっとした芸能ゴシップも、ダメダメ家庭を考える材料になったりするもの。
練習問題としては、ちょうどいいと思います。


ちなみに、今回はタイースと表記しましたが、タイスと表記されたりもします、小説のタイトルも「タイース」だったり、「舞姫タイス」だったり・・・

あるいは、この小説「タイース」はフランスのオペラ作曲家のジュール・マスネの作品であるオペラ「タイース」の原作としても有名です。その中の間奏曲である「タイースの瞑想曲」なんて曲は、メロディーを聞けば、誰だって知っているくらいの有名な曲。ヴァイオリンが、あま〜いメロディーを奏でる例のヤツですよ。

ご興味がありましたら、図書館で借りて読んでみてくださいな。それほど長い小説ではありませんので、1日で読めるでしょう。ただ、中間部分にある哲学問答の部分は読む際には省略してもOKです。あの部分は、その手の議論の空虚さを演出するためのもの。わかりにくいだけでなく、そもそもが空虚なんだから、最初はとっつきにくいでしょう。
あと、オペラ全曲はともかく「タイースの瞑想曲」だけは、図書館には置いてあるはずです。ご興味がありましたら、どうぞ!

ただ、この作品の基本的なテーマは、芸能界で肉欲に浸っているタイースをキリスト教に回心させることに成功しても、自分がタイースの色香に堕ちてしまう修道院長パフニュスの問題です。
パフニュスは、修道院長ですから、知識はあるし、信仰心だって強い。
ただ、彼は自分自身の「弱さ」が本当の意味ではわかっていない。

だから、せっかく修道院で心の安らぎを得ているのに、「タイースを助けに行こう!」なんて余計なことをしてしまう。人助けなんて、その人から頼まれればすればいい話。頼まれてもいないのに、「助けたい!」なんて言い出す人間は、ある意味、傲慢の罪に陥っているわけ。それだけ自分の「弱さ」がわかっていないんですね。

ちなみに、オペラでは最後にそのタイースとパフニュスの2重唱になります。過去を改心して、天国に召されていくタイースは「アナタ様のおかげで天国にいけますわ!」と歌い上げる。しかしパフニュスは、「オマエに言ったのは全部ウソだ!神など存在しない!存在するのはオマエの美しさだけだ!逝かないでくれ!タイース!」と絶叫するわけ。

自分自身の「弱さ」を自覚していないと、大怪我をする・・・このあたりも、まあ、ツボでしょ?

(終了)
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発信後記

雨にも負けず、風にも負けず・・・ゴールデンウィークも関係なしにメールマガジンを配信しておりますが・・・というか、今のうちに書き貯めしておかないとね。
ゴールデンウィークなので、どこかにお出かけの購読者さんも多いでしょう。

この文章も後になってお読みになる方も多いでしょうね。
それは別に構いません。別に時事ネタを扱ったお題ではありませんし。

ゴールデンウィークにはどこかにお出かけでも、その後にでも、たまには本でも読んでみては?
日頃から読んでいる人もいらっしゃるでしょうし、滅多に読まない方もいらっしゃるでしょう。まあ、むしろメールマガジンの購読を休んでも、じっくり本でも読むのもいいと思います。
もし、その本の内容がダメダメ家庭に関係あるものでしたら、そんな観点で文章をまとめてみて投稿してみては?

作者がどんな考えで、小説を仕上げたのか?
自分で文章をまとめてみると、今まで以上に、作者の考えが、よくわかるようになると思います。そのような経験は、人と話をする時にも役に立つんですよ。
R.10/3/28